オレの余剰次元

言いたいことも言えないこんな4次元じゃ

公開日
2022年5月2日

指数の可換性

対象
大学2.0年
前提知識
集合の基礎
写像
抽象的な代数計算

モノイドを考えよう

二項演算やモノイドという言葉にピンと来る人は飛ばしてください

前ページで, に対する の厳密に定義しました.この定義に基づけば などの指数にまつわる性質を帰納法で初めて証明することができます(勿論 の加法や乗法を定義してからですが).ところで冪乗について,なにも実数に限定する必要はなく, に対する も同様に定義され,指数法則なども証明できます.

しかし,実数の冪乗,複素数の冪乗などをその都度定義し,それに関係する諸性質を証明するのは面倒です.そこで, に限定せず,二項演算が定義された集合 に対して冪乗を定義した方が効率的です.線形空間の理論でスカラー全体を に限定せずに とするのと同じです.

加法や乗法などを二項演算といいます.二項演算とはそもそも何か,現代数学の立場で考えてみます.例えば, の加法とは, に対しては が, に対しては が対応する写像 のことです.一般に, を写像 で写したものは と書きますが,二項演算と銘打っている場合は と書くことにします.例えば, に加法 を定義したら, と書くわけです.

定義

二項演算

集合 に対し,写像 上の二項演算という. に対し, とかく.特にこだわりがなければ,この演算を 上の乗法という.

二項演算の記号に用いる記号は,一般になんでも構いませんが,通常は などが使われます. を用いた場合, を通常はと呼びます.

さて,この定義に基づけば,写像 は,どんなものも二項演算ということになります.例えば, で定義すれば で,なんだか面白そうなことができそうです.しかし,二項演算 について調べても建設的な議論はできそうにありません.例えば, だから, です.ゆえに は可換律(交換法則のこと)を満たしません.一般に結合律 も満たしません.つまり闇雲に二項演算を定義しても,演算というからにはこれくらい満たして欲しい,という性質を満たしていなければ,それなりの理論展開は難しいのです.例えば,結合律,可換律,単位元の存在などです.単位元とは のように,任意の に対し を満たす特別な元 のことです.

指数法則云々の議論をするため,結合律と単位元の存在が保証されている集合を考えます.これをモノイドといいます.

定義

モノイドの定義

集合 上の二項演算 が以下を満たすとき,モノイドという.

  1. .(結合律
  2. .(単位元の性質)

はただの集合であって,二項演算 があってこそのモノイドです.ゆえにモノイドは のように,演算などもセットで表現するのが厳密です.しかし,いちいち書いてられないので通常は だけで単にモノイドと呼びます.単位元を明示したいときは「 を単位元とするモノイド 」などといいます.演算が複数ある集合の場合はその旨も言ったほうがいいでしょう.例えば は,乗法に関して を単位元とするモノイドであり,加法に関して を単位元とするモノイドでもあります.

演算を備えた集合を代数系といいます.

指数に関する細々とした性質を証明してみよう

以下, を自然数の体系とします.

定義

冪乗の定義

を単位元とするモノイド を考える. に対し,

を満たす写像 がただ一つ存在する. とかき,という.定義より以下が成り立つ:

本ページのゴールは, に対し を証明することです.これをクリアしておくと,自然数の計算法則(結合律や可換律など)が簡単に証明できます.

ちなみに証明をする上で,「冪乗の定義より」というフレーズが何度か出てきます.それは, という式変形のトリガーです.

以下, をモノイド, とします.

補題

のとき,.特に のとき,

証明

帰納法. より のとき成立. を仮定すると, だから, のときも成立.

命題

証明

についての帰納法.単位元の性質より だから のとき成立. を仮定すると だから, のときも成立.

命題

指数法則3

のとき,

ちなみに指数法則1, 2 はそれぞれ のつもりで, の加法と乗法を定義したら証明します.

証明

帰納法. だから, のとき成立. を仮定すると, だから, のときも成立.

そろそろ括弧の義務化も解放したいと思います.ご存知の通り,結合律を満たしているならば, などはすべて等しいので,単に とかくことにします.

命題

証明

についての帰納法. だから, のとき成立. を仮定する. だから,指数法則3より が成り立つことに注意すると だから, のときも成り立つ.

さて,準備が整いました.次回は自然数の加法や乗法の定義およびその性質を一気に証明します.