- 2022年5月3日
- 2022年5月19日
加法と乗法
- 対象
- 大学2.0年
- 前提知識
- 集合の基礎
- 写像
自然数の基本性質
を自然数の体系とします.前ページで以下を証明しました.
命題
をモノイドとする.任意の に対し,
さて,集合 に対し,写像 全体の集合 は,写像の合成に関して恒等写像 を単位元とするモノイドですので, の 回合成写像が 考えられ,上の命題も満たします.
自然数の演算を考えるにあたり, の 回合成 が理解の助けをしてくれます.
命題
自然数の基本性質
.
自己言及的かも知れませんが,自然数 は を で 回写したものに等しいということです.
証明
帰納法. より のとき成立. を仮定すると だから のときも成立.
加法と乗法の定義
結果的に で写すという行為は, を加えることになります.それを踏まえると, は, を で 回で写したものと定義するのが自然です.つまり, としたいのです.ここで,対称性っぽさを出すために, を代入して とすると綺麗です.ちなみにこの文書では,合成写像の を省略します.また, を合成写像 で写したものは と書く方が親切ですが,誤解の恐れもないので を省略し, とだけします.
積 は, で写す行為を 回写すと考え, と定義します.和と積の定義が, 回合成の記法をするとシンプルにできます.問題は,このような定義で結合律や可換律(交換法則のこと)などが満たされるかです.前ページで補題をかなり証明したので,案外スルスルといきます.
自然数の加法
定義
加法の定義
写像 を で定義する. を 上の加法といい, を の和といい, とかく.
これで,ようやく記号 から解放されます(タイプが面倒だった……).
命題
.
証明
.
以後, を基本 で表します.
多くの文献では, を固定し, に を加えることを再帰性定理を用いて定義します.具体的には,
- ,
- .
で定まる写像 に対し, とするのです. を用いずに上の2項目を書き直すと
- ,
となります.この定義で始まる解説はネット上にも無限に存在するので,あえてせずに 回合成の概念にこだわってみました.この文書の立場では,上記の性質は証明すべき命題になります.
命題
加法の帰納的性質
のとする.
- .
- .
証明
(1) . (2) について, である.
これで指数法則が証明できます.
命題
指数法則1
をモノイド, とする..
証明
についての帰納法.. を仮定すると だから のときも成立.題意は示された.
命題
加法の計算法則
とする.
- .(結合律)
- .(可換律)
- .(単位元の性質)
証明
(1) 写像は結合律を満たすので,指数の可換性も踏まえると 指数法則1より をこの写像で写せば を得る.
(2) 指数法則より .ゆえに .
(3) はすでに証明済みで,(2) より も成り立つ.
命題
.
証明
.
自然数の乗法
定義
乗法の定義
写像 を で定義する. を 上の乗法といい, を の積といい, または とかく.
命題
乗法の帰納的性質
とする.
- .
- .
.また, である.
命題
指数法則2
をモノイド, とする..
証明
より, のとき成立. を仮定すると, だから, のときも成立.
命題
乗法の性質
とする.
- .(結合律)
- .(可換律)
- .(単位元の性質)
証明
(1) 指数法則2より,.これで を写せばよい.
(2) で を写せばよい.
(3) .(2)より である.
命題
分配律
とする.
- .
- .
証明
(1) についての帰納法. のときは両辺 で正しい. を仮定すると
より, のときも成立.(2) は乗法の可換律より成立.
命題
.
までの定義は でしたので,逐次代入していくと であることに注意してください.
証明
冪乗の定義を繰り返すと だから,.
命題
とする. ならば .
証明
対偶を示す. とすると,ある に対し, と表せるから 題意は示された.
だいぶ自然数に関する性質を厳密に証明できました.次回は順序について解説します.