オレの余剰次元

言いたいことも言えないこんな4次元じゃ

公開日
2022年5月14日
更新日
2022年5月22日

様々な帰納法

対象
大学2.0年
前提知識
集合の基礎

についての命題とします.

ベースケースが1以上の帰納法

のとき成り立ち, が成り立てば,任意の に対し は成り立ちます.一応証明しましょう.

命題

とする.以下が成り立つとき,

切片を表すものとします.つまり, です.

証明

とおき, を示せばよい. より .ゆえに を任意にとる. のとき, だから のとき,(1) より は成り立ち のとき,,i.e., だから,(2) より は成り立ち,ペアノの公理系 (P3) より

累積帰納法

普通の帰納法は のとき成り立つことを仮定し, のとき成り立つとすると のときも成り立つことを主張し,任意の で成り立つことを帰結する証明法です.大学以降でしばしば使われる累積帰納法は, のとき正しいことと, のとき成り立つことを仮定して のとき成り立つことを示し,任意の で成り立つことを帰結する証明法です. のとき正しいことを示す材料が増えるのでかなり便利です.

例えば, より大きい が1つ以上の素数の積で表せる(つまり,素数 はそれ自身が素数の積とみなす)ことは,累積帰納法で簡単に示せます.

命題

素因数分解の可能性

のとき, は素数の積で表せる.

素数の定義などはまたしてませんが,既知のものとします.

証明

(累積)帰納法. は素数だから のとき成り立つ. は素数の積で表せると仮定する. が素数のとき,主張は成り立つ. が素数でないとき, より大きい正の約数 をもち,ある を用いて と表せる. だから,帰納法の仮定より は素数の積で表せる.よって も素数の積で表せる.

累積帰納法の正しさを証明しましょう.

命題

累積帰納法

についての論理式とする.以下を満たすとき,

証明

についての命題 で定義する. のとき, を満たす だけで,(1)より が成り立つ. を仮定すると,(2) より が成り立つ.よって ,すなわち が成り立つ.帰納法により が成り立つならば も成り立つので題意を得る.

命題

累積帰納法2

についての論理式とする.以下を満たすとき,

こちらの方が最終的に示すべき命題が となるので,気持ちよく証明を終えることができます.

ちなみに累積帰納法は,以下の形で紹介されることがあります.

命題

コンパクトな累積帰納法

についての論理式とする.以下を満たすとき,

のときは示さなくていい,という錯覚をしてしまいそうですが,そんなことはありません. についての論理式 を示す際, のときは を示すことになるのですが, の部分が常に成り立つので,仮定なしで を示さなければならないからです.

累積帰納法2の使用例

命題

商と余りの存在

任意の に対し,ある が一意的に存在し以下が成り立つ:

証明

(存在性) を固定し, についての帰納法で示す. に対し とすると,いつしか証明した補題より, で, だから .よって, のとき,商と余りはともに に限る. 未満で成立すると仮定し. に対し とする. のとき, を仮定すると ゆえに となり矛盾.ゆえに ,そして .つまり,商は ,余りは に限る. のとき, で, より 帰納法の仮定より, に商 と余り が存在し,それらは一意的だから つまり, に対し商は ,余りは に限る.よって のときも成立.

は減法について閉じていないので,減法が面倒です.